【2024年2月版】生成AIは福音か、簒奪者か?1ライターの見解



生成AIは神か、悪魔か。ボクたちにもたらされた福音か、仕事を奪う簒奪者か。

ChatGPTのセンセーショナルな登場以来、混沌とすら呼ぶことができそうな議論が、日々、繰り返されています。

開発者ですら「なぜ、そんなことができるのか」説明できない生成AIの高性能。その爆発的な進化のスピードを前にして、1ライターが見解を述べることは暴挙と言えるかもしれません。

しかし”DXと生成AI”を専門とするライターとして、ある種の予感が生まれてきました。そのうえ、学ぶべき研究者や識者の見解がたて続けに出そろってきました[1,2,3,4]。

そこでこの記事では、以下の問いをテーマとして1ライターとしての見解を述べます。

  生成AIは、ライターという「職種」にどのような影響を与えるのか。

  ライターという「職種」が労働市場において存続できるのか[2]?

ただし、さまざまな要素の掛け算で動向は急激に変化していくことでしょう。だから【2024年2月版】としています。今後、頻繁なアップデートを予定しています。

それからこの記事は、以下の前提条件をおいています。

ライターにとっての生成AIの影響を考える。さらに検討の状況をしぼる。CrowdWorksやLancersでWeb記事のライティングの業務委託を受けるライターや、Web系のメディア企業内で働くライターを対象とする。なぜならばボクが一番、良く知っている状況だから。

ChatGPTやGoogle Geminiなどを代表とする、言語を理解し、テキストを生成する言語生成AIを対象とする。なぜならばライターにとって言語生成AIの影響を考えることが第一だから(当たり前ですね)。

それでは結論はなんなのか?

それではいきなり結論を述べます。

  1. 生成AIがライターの仕事に大きな影響をもたらすことは間違いない。
    生成AIの高度な言語処理機能には、人間をはるかに超越することがある。
    その一方で、人間にしかできないこともある。
    つまり生成AIは、少なくともライターの仕事の一部を代替できる。
    だからライターに求められる仕事の内容は大きくかわる。
  2. しかしライターという「職種」がなくなることはない。
    生成AIが「書く仕事(の一部)」にどのような影響を与えようとも、「ライティング=書く仕事」への需要がなくなることはない。
  3. どのように変わるかは、ライターに対する「需要と供給の量と内容」の綱引きで決まる。
    経済学の教科書を開けば書いているとおり、需要が増えて供給が横這いであれば価格はあがる。
    需要が横這いで供給が増えれば価格が下がる。
    短期的な変化の動向と度合いは予想がつかない。
    しかし長期的には「ひとつの姿」に収束していくものと思われる。
  4. 長期的には、このような「ひとつの姿」に収束していくものと思われる。

□新人ライターにとって

ライター需要の伸びと生成AIの普及スピードの、短期的な動向変化は予想がつかない。

ただし生成AIの登場以前に、参入者の増加で、市場が既にレッドオーシャン化しているとの指摘がある。レッドオーシャンとは、競争が激しい既存市場のことをいう。

しかも生成AIは新人ライターの仕事を代替できる。長期的には、市場のレッドオーシャン化は、ますます深刻な問題になる(汗)。

□プロライターやプロディレクターにとって

プロライターやプロディレクターが持つ、専門スキルやマネジメント・コミュニケーションスキルの希少性は極めて高い。現状でも圧倒的に不足している。

また生成AIは、これらスキルを代替できない。長期的にもこれらスキルの希少性が損なわれることは考えにくい。

それにプロライターやプロディレクターは、生成AIを『補助器具』として使いこなして生産性を向上させている。このような事例が相次いでいることにも、目を向ける必要がある。

なぜそのように見立てるのか

動向変化の予想図をマトリクスにまとめたのでご覧ください。

このマトリクスには以下の項目について、補足説明がいくつか必要です。とりわけAGI(汎用人工知能)が登場するのか、しないのか。専門家でも意見がわかれる問題です。だから継続して解説記事を書く予定です。

  • 生成AIにはフツーの文章がフツーに大量に高速に書けること。
  • 生成AIは、どのように新人ライターを代替できるかということ。
    ただし「代替できる=代替する」ではないことに注意が必要。
    「代替する」ためには、生成AI利用の普及が前提となる。
    生成AIの普及のスピードは「ゆっくり」かもしれない。
  • 生成AIが持つ知識は平凡であること。
  • 生成AIには人間との共感ができないこと。また、それがなぜ問題かということ。
  • AGIがいずれ登場するとの論者がいる[1]。
    その一方で、現状ではAGIの登場は考えにくとの論者もいる[2,3]。
    ボク個人はAGIが登場するとの意見には与しない。

ではライターは、どのように生成AIと向き合っていけばいいのか

ライターはこれから生成AIとどう向き合っていけばよいのでしょうか。ボクは意外なところから、大きなヒントをもらった気がしています。というよりも、むしろ「やっぱりそうだったのか」と確信めいたものをつかみとった気がしています。

2024年の芥川賞に選ばれた「東京同情塔」の作者である九段理恵さんのインタビュー番組[4]でのこと。AIを活用して書かれたと話題の「東京同情塔」ですが。「AIが生成する“言葉”と人間が紡ぎ出す“言葉”の違いは何なのか」と問われた九段さんはこう答えます。

現在のところ、AIが発する言葉と人間の発する言葉の違いは、『相手との関係性の中で初めて生まれる言葉があるのが人間』だと思います。

人間の「考える」は、「コギト・エルゴ・スム(我、思う。故に我あり)」ではないのでしょう。

だれか相手がいて、相手との関係性のもと、対話に生まれる文脈を通して考え、お互いに動的に「意味」を見いだしていく存在なのでしょう。

その見出した意味が重なったとき、「共感」が生まれる存在なのでしょう。

生成AIの動作原理は、過去の膨大な言語データをパターン化し組み合わせて、新たな出力を生み出すことです。動作原理上、生成AIには「共感」ができません。

人間と生成AIの創造性の違いについて、重要な論点は他にもありますが、ボクは第一に「共感」ができない生成AIの限界は大きなものと考えています。

つまりディレクションに必要なマネジメント上のコミュニケーションをはかること。取材で相手の気持ちを引き出して優れたインタビューを行うこと。これらは生成AIには原理的に無理なのです。

プロライターやプロディレクターは自信をもってスキルを磨くべきです。その時に、生成AIは「補助器具」としておおいに働いてくれるでしょう。

新人ライターには過酷な状況が続きます。でもやっぱり生成AIを「補助器具」として、スキルを1日も早く磨き上げましょう。

でもまかり間違っても、生成AIに「丸投げ」をしてはいけません。「自ら考える」ことを放棄しては、絶対にいけません。

参考

[1]『生成AIで世界はこう変わる』今井翔太著[SBクリエイティブ株式会社刊]

[2]『ChatGPTは神か悪魔か』山口周著(ページ47~)[宝島社刊]

[3]『ChatGPTは神か悪魔か』池田清彦著(ページ221~)[宝島社刊]

[4]『サタデーウォッチ9・芥川賞作家・九段理恵さんのインタビュー』2024.1.27 21時[NHK]